第19回全日本高等学校女子サッカー選手権大会  報告書      印刷用pdfはこちら報告書


まえがき

大阪桐蔭高等学校女子サッカー部は平成22年7月24日から静岡県磐田市で行われた第19回全日本高等学校女子サッカー選手権大会に関西第1代表として大阪の大商学園高等学校(第2代表)、兵庫の日ノ本学園高等学校(第3代表)とともに出場した。3年前に創部2年目で初出場を果たすもののその後2年間は関西大会、大阪大会で敗れるつらい時期を過ごした。しかし今年は大阪大会では大商学園に敗れ準優勝となったものの、関西大会では10連覇を目指す日ノ本学園を準決勝で1−1PK4‐3の末破り、さらに決勝でも大商学園に1‐0で競り勝ち初優勝を果たした。前回出場した第16回大会は1次ラウンド2勝1敗〔3‐1埼玉栄、0‐6鳳凰(鹿児島)、4‐2桐陽高校(静岡)〕でグループ2位となり決勝トーナメント進出はならなかったが今回は目標を優勝として大会に挑んだ。

大会概要

全国9地域の予選を勝ち抜いた36チームのトーナメント方式で行われた。2回戦のあとと準決勝とあとに休息日が設けられた。グラウンドは全て天然芝でこの大会に向けて整備されており良いピッチコンディションで試合をすることができ、とくにゆめりあサッカー場は芝のじゅうたんともいえる状態だった。

決勝戦はジュビロ磐田の本拠地ヤマハスタジアムで多くの観衆のなかで行われた。関西大会では10連覇を逃した日ノ本学園だったが2回戦で関東第1代表の十文字中学高校(東京)戦で劣勢をはねのけ1−0で競り勝って波にのり、準々決勝で成立学園中学・高校(東京)を4‐1で撃破、準決勝では強豪神村学園高等部(鹿児島)を1−0で破り決勝に進出した。一方史上初の3連覇をかける常盤木学園高校(宮城)は準々決勝で大阪桐蔭高校を、準決勝で日本航空高校(山梨)をともに延長で破り王手をかける。決勝は1点を争う好ゲームとなったが後半左サイドの突破からゴール前にチャンスを作った日ノ本がこぼれ球を押し込むゴールで決勝点を挙げ念願の初優勝を果たした。常盤木はエースFW斉藤や京川を日本代表やけで欠くなどして攻撃面でボールがおさまらず得点機をつくることが出来なかった。

これまで全国大会では関西は突出して高いレベルでなかったが、日ノ本が優勝し大阪桐蔭も準優勝した常盤木と延長戦に持ち込み、さらに大商学園もベスト16に入るなど今大会では関西勢の活躍が目についた。特に日ノ本は10年連続ベスト8以上を達成し2度の3位(2003年、2008年)を経験して念願の初優勝となった。3位の日本航空は2年連続でベスト4入り、神村は昨年の準優勝に続いて4強となった。この数年は常盤木がリードし、聖和学園(宮城)が続く東北勢と神村、鳳凰高校(鹿児島)の九州勢、日本航空、十文字の関東勢、藤枝順心、常葉学園橘(ともに静岡)の東海勢が上位を占める。ここに関西勢としては2000年に啓明女学院(兵庫)が優勝して以来10年ぶりの関西勢優勝で今後勢力地図が変化していくのではないかと期待される。

上位チームの特徴

日ノ本学園・常盤木学園

日ノ本はトップに大型FW瀬口をおきキープ力と突破力を武器にカウンターを狙う。全員の守備意識は非常に高く瀬口でさえ、ワントップ気味で孤立している場面でもその強烈なフィジカルで相手を追いかける。守備ラインは堅実でラインを高くはとらないがブロックを形成して数的有利を作り包囲網をつくっていた。攻撃は瀬口に依存しているものの両サイドのサポートは早くチャンスと見るとスピードに乗って上がってくる。相手によってシステムや選手配置を変えて対応し、戦術対応能力の高さが目についた。一方常盤木はボランチ坂本、木下の能力が高く危険察知能力が優れている。3バックで守ることが出来る数少ないチームだが、この2人のボランチ能力の高さがそれを支えている。攻撃は左サイドにU-17日本代表俊足ウインガー仲田をおきチャンスをつくるとともに、自らシュートを仕掛ける。特に準決勝日本航空戦で先制されたあとに追いついた同点ゴールや、昨年決勝での先制ゴールなど彼女は勝負強さを持っている。トップは道上がキープ力のある大型FW、テクニックのある権野など相手に合わせて、また試合の流れによって選手を変えてくる。

両チームとも連戦でも落ちない持久力を持ち合わせていたと思うが常盤木が準決勝、準々決勝と延長戦を戦ったことが決勝戦でのパフォーマンスを上げられなかった一因であるようだ。その点日ノ本はまったく終わりまで動きが落ちなかった。技術的には常盤木のほうが上回っていたが、1/3攻撃エリアでのボールキープが不足していて攻撃の起点をつくることが出来なかった。もちろんその要因を作り出していたのは、日ノ本の集中した守備力であった。

大阪桐蔭高等学校の戦い

◇1回戦(7月25日、ゆめりあサッカー場 11:15キックオフ)

大阪桐蔭高等学校1-0(0-0)磐田東高等学校(東海第3代表)  得点41分金井

磐田東は全国大会出場2年連続2回目。昨年は1回戦で岡山県作陽高校に敗れているため1回戦の突破が大きな目標となる。これまで何度か招待大会や練習試合では試合をしているがこの学年のチームでは初対戦となった。磐田東は地元チームがゆえに我々は完全アウェイを覚悟して試合に臨まなければならなかった。前日の監督会議では昨年対戦した作陽高校の山崎監督に「磐田東の応援はすごいよ」と驚かされ、精神的に未熟な我々にとって不安な気持ちになった。前日のミーティングでは「こんなアウェイゲームが経験できるのも我々だけだ。多くの観客の前でプレーできることを喜びにしよう。地元の人にとって大阪桐蔭は憎いチームになるのは覚悟の上で悪役に徹しよう」と気を引き締めた。

立ち上がりは大阪桐蔭のペースだった。しかし磐田東はキーパーの活躍もあって簡単に突破をさせてもらえない。次第に流れは磐田東に傾いていった。磐田東はコーナーキック、フリーキックに優れたキッカーを2人配置し、セットプレーは非常に危険だった。何回かのセットプレーはGK森の活躍でしのいだ。後半に入り磐田東に疲れが見えたので4‐2‐3‐1から4‐3‐1-2チェンジして中央の混乱を仕掛けた。大阪は非常に暑い。特に大阪桐蔭のグラウンドは「岩盤浴」ともいわれる下からの照り返しが厳しい人工芝である。ここ磐田は湿気がなく涼しく感じられたことが精神的に楽になった。後半の2トップにして磐田東のセンターバックとボランチの間にトップ下がもぐりこみ、マークにずれが生じ金井の得点を誘発した。風上にたった有利もあり相手にシュートを打たすことなく完封した。難しい初戦をものにして緊張が解けた。

◇2回戦(7月26日、竜洋スポーツ公園 9:30キックオフ)

大阪桐蔭高等学校1-0(0-0)修徳高校(関東第4代表)  得点41分松川

1回戦で青森県の千葉学園高校(東北第3代表)を9-0で粉砕している修徳高校と対戦した。修徳は3月埼玉県で開催されためぬまカップで対戦し1-1で引き分けている。千葉学園との試合はサイドバックやセンターバックまでも攻撃に加わる超攻撃的なスタイルで圧勝、スカウティングビデオを見るたびに攻略に苦心せざるを得ない相手だった。開始早々チャンスをつくり赤坂がシュートを放つも枠を外れる。それでも大阪桐蔭が優位に進めて相手をCKからのシュート1本に押さえて前半を終えた。後半に入りやや暑さで動きが止まった修徳にさらに攻撃を畳み掛ける。後半6分左サイドのスローインから1トップに入った吉田がカットアウトで流れてボールを受け中央に折り返す。長い距離を走った松川が美しいヘディングシュートを叩き込んだ。追加点を目指して攻撃したが濱本のヘディングシュートが最大の惜しい場面。結局最少得点でゲームをものにした。

終了間際には(悪質なファールではなかったのだが)修徳に退場者が出るなど白熱した戦いにもかかわらず、試合後の修徳には敬意を払わずにはいられなかった。修徳のキャプテンは私に次の試合に頑張ってほしいことと、この試合の感謝を言葉にしてさわやかに去っていったのだった。そのキャプテンは我々のイレブンにも、応援団にも同じように言葉をかけてくれた。

◇準々決勝(7月28日、ゆめりあサッカー場 9:30キックオフ)

大阪桐蔭高等学校0-0(0-0)延長0-1(0-1)常盤木学園高等学校(東北第1代表)

失点74分

 常盤木とは過去公式戦での対戦はないがめぬまカップで3回対戦している。1回目は2008年大会の決勝で0-6で敗れ、2回目は2009年1次リーグで0-1、そして3回目は今年の1次リーグで0-1と得点すらあげていない。これまでやってきたものがどこまで通用するのかを試す絶好のチャンスだった。この大会の目標は優勝なのでここで前回覇者と対戦することは残念とは思わないようにした。優勝するためにはすべての試合に勝たないといけない。従ってベスト8で対戦しようが、決勝で対戦しようが同じであると選手に話した。すでに大阪桐蔭は前回出場した全国大会の記録を上回った。ベスト8は立派な記録であり過去最高となった。大会に入ってから安定した守備力が問われた試合であった。

 常盤木は日本代表の京川はベンチにも入っていなかった。同じく斉藤はメンバー外であった。両エースを欠きながらも勝ち進む常盤木はその選手層の厚さでも他チームを圧倒する。選手が代わっても戦力はほとんど落ちない。基本的なことはどの選手が出てきてもセオリーどおりにこなせるのだ。3-2-4-1のトップは道上ではなく権野だった。

 ポゼッション型の常盤木は最初から超攻撃的にはこない。相手の出方をさぐりつつじわじわ弱いところをついてくる。我々はどれだけ守備が出来るか。FWも含め11人がどれだけ守備の意識を高く持ち、なおかつ適切なファーストディフェンダーが決定できるかが鍵となる。この2試合でかなり出来ていたし、常盤木戦でも入り方はとてもよかった。それでも前半はかなり押し込まれ決定的なチャンスを2回作られた。GK森のファインセーブや守備陣の体を張ったプレーで失点は免れたものの、完全に試合を支配された時間帯が続いた。それでも得点を許さなかったのは守備力が機能した現れである。後半に入ると風上に立ちやや優位となった。時間帯によってはCKを立て続けに得たが、後一歩のところでゴールを割らせてもらえない。常盤木はやや単調な攻めになっていた。ポゼッションを放棄しロングボールに頼るようになっていた。これも、ショートパスに対する守備のよさがそうさせたのだと思う。後半終了間際に攻め込まれたボールをクリアーするキャプテン松井に相手の足が入り負傷した。軽症と思われたが、ピッチの外で彼女が自力で立ち上がることはなかった。サッカーはけががつき物である。誰がけがをしてもチームが困らないような準備をしている。しかし、精神的な支柱としてまた守備ラインを的確にコントロールするセンターバックの代わりがいないことも事実である。

 延長を前にして、組織を変更せざるを得なくなった。それは、ほんの一瞬の混乱を引き起こす原因となり延長前半、途中交代で入ったきた道上に中央を突破されて失点をした。常盤木には1点で十分だったかもしれない。我々は守備で貢献した攻撃陣はすでに攻撃の余力がなくなっていた。

まとめ

前回出場した報告の中で大阪桐蔭の戦いを振り返ってもっとレベルを上げなければならないと書いた。大阪桐蔭をはじめ関西のチームが強くならないといけない。そのためには大阪や関西の切磋琢磨が必要であると書いていた。この数年で関西のチームは大きく成長したと思う。大阪の予選はリーグ戦となり関西大会ではどうすれば実力のあるチームが全国に行くのか論議するようになった。今年から関西トップスチューデントリーグが始まり高校と大学との交流戦が行われている。大阪では大阪桐蔭高校、大商学園、星翔高校の3チームがしのぎを削った戦いを行い、実際大阪桐蔭高校は全国大会を1週間前に控えた全日本選手権大会で星翔にPK負けを喫している。大商学園も同じ全日本選手権で大阪国際大学に敗れ姿を消した。大阪国際大学には大阪桐蔭、大商学園の卒業生が多数おりレベルを引き上げている。関西では、武庫川女子大学、今年創部された姫路獨協大学、近年強化をはかり力をつけてきた親和女子大学にも大商学園、神村などの卒業生が進学している。大学の雄大阪体育大学は常に関西をリードし、関西トップスチューデントリーグに参戦している吉備国際大学、作陽高校は常に全国レベルのチームである。今回関西大会で涙をのんだ京都精華高校は中学部を有して優秀な選手を育成している。日ノ本の優勝は長き歴史の積み重ねであり、関西のトップチームとして君臨した成果であるがこの数年関西の活発な動きと無関係ではないであろう。

今後さらに我々が常に全国で上位に食い込み、関西や大阪のレベルを向上するには今以上の厳しい環境を大人が作っていることが必要である。高校チームはもっと増えないといけない。関西は人口比でチームが少なすぎる。中学年代の育成を行わなければならない。地元で育った選手が入ってくる環境をもっと整備しないといけない。前回の報告の最後にこの文章がある。

 「ぜひ啓明女学院(第6回、9回大会で優勝)に続き関西出場のチームが全国制覇する日が来てほしい。」

こんなに早くこの日がやってきたことをうれしく思う。もちろん自分たちが優勝できなかった悔しい気持ちを隠しはしないが、日ノ本学園そして長年にわたって関西の女子サッカーをリードした上嶋先生には心からお祝いの言葉を申し上げたい。